まぬけもの

vol.01

「もの」における、まぬけとは?
古今東西、さまざまなインテリアプロダクトに通じ、
収集家としても知られる郷古隆洋さん。
郷古さんが思う「まぬけもの」についてお話をうかがってきました。

郷古 隆洋 ごうこ・たかひろ

「ユナイテッドアローズ」「ランドスケーププロダクツ」を経て、2010年に各国から収集したインテリア雑貨を卸販売する「Swimsuit Department」を設立。直営ショップの「BATHHOUSE」も運営。そのほか、店舗のインテリアコーディネートや美術館のオリジナルグッズなども手掛ける。

時代、国境を超えて、空間をつなぐのが
僕のまぬけもの、でしょうか

東京と福岡で二拠点生活を送り、三店舗を経営する郷古さん。
「まぬけもの」があるとするなら、ここ、と招かれたのは、東京のほうのご自宅。
「1ヶ月のうち東京で過ごすのは1週間。家族は福岡で生活をしていて、
ここにいるのはほとんど僕だけなんです。仕事のために仕入れたものは
だいたいお店に送るので、ここにあるのは自分の趣味のもの」

90年代に建てられたマンションのリビングには、
ヴィンテージアイテムの目利きとして知られる郷古さんらしく、
ジャンル、国、時代を超えた、癖の強いアイテムがずらりと、いや、
ぎゅうぎゅうに並んでいる。
しかし、そのカオスぶり、密集ぶりが妙に心地よく、
「これって、なんなんですか?」と話は尽きない。

「まぬけものかー。難しいお題ですね。なんだろう……」と、
部屋を見回しぐるぐると歩き回る。
数多くインテリアの提案をしてきた郷古さんだが、
まぬけを定義するのは一筋縄ではいかないようだ。
ひとつひとつのものが持つエピソードを伺うなかで、
「これはまぬけものでは!?」と浮かんできたのが、こちらの6つ。

見るからに、まぬけもの

鳥取のおめん

「そうそう、これ、“ぬけ”っていうんですよ!」と指さしたのは、
壁にかけられた3つのおめん。部屋にお邪魔したときから目が合っていた
ような気がしたけれど、これは見るからにまが抜けていて愛らしい!

その一番右、黄色い垂れ目の名が“ぬけ”というそう。
「鳥取の麒麟獅子舞というお祭りで使うおめんがあるんですが、それを
モチーフにしたものなんです。赤は猩々(オランウータン)、金は鼻たれといいます」
鼻たれ……。名前までもが、まぬけもの。
しかし、決してほがらかキャラではなく、このお面をつけた時だけは、
どんな罵詈雑言も許されるという特権を持っているとか。

はりこ作家・豊永盛人さんによる桃太郎や金太郎のおめん、
「ジョーズのパクリなのでは?」というメキシコのおめんなど、
コレクション多数。

メキシコのアダムとイブ

テーブルの上。棚の上。窓辺。
土人形や果物、教会モチーフのオブジェなど、同じものが何個も
並んでいるのも、郷古さんが愛するディスプレイ術。
「同じみちすじを持つものが集まって生まれる、
“集合美”というものがあると思うんですよね」

なかでも、すごい数があったのが、
メキシコの民芸品「Tree of Life=生命の樹」という燭台。
コレクションしてしまう魅力は、というと
「色の鮮やかさと、ここでやめるんだ!という、つくりの大らかさ。
アダムとイブの顔なんて、ちょんちょんぴ!
としか描かれていないでしょう(笑)。
日本だとこんないい加減なつくりにはならないから、
そこがいいんですよ」

ゆがんだ日の丸

“集合美”はソファの上にもあった。
クッションや畳まれた布がソファをぎっしりと覆っていて、郷古さんはこの状態が好きで落ち着くという。
ソファはイタリアのデザイナー、マリオ・マレンコがデザインしたもので、いわば名作。
それが、原型がわからないほど布に覆われているというのも郷古さんらしい。

ひょいっとかけられていた布を広げると、それはまさかの国旗。
「蚤の市で見つけたんですが、ちょっと円がゆがんでいるんですよ、この日の丸。
そのラフさが面白いと思って買ってしまいました」。
そして、国旗にしては白地に対して日の丸のバランスが大きすぎやしないか……?
このアンバランスさ。国旗にも、まぬけエッセンスが潜んでいたとは。

郷古さんならではの「まぬけもの」が
抜けのあるインテリアをつくる

あえての造花

“見た目のまぬけ”とは別の視線で、
郷古さんらしい解釈で「まぬけもの」を考えていてくれた。
「間があって抜けている、という意味では、造花かなあ。花って空間にあると、いい感じに場を埋めてくれますよね。ただ、僕は1週間しか東京の家にはいないので、生花を飾ることが難しい。それで、造花を飾ってみたところ、いいなと」。
よく見るとテーブルの上の百合も、チューリップも、バラも、ガーベラも造花!

空間の間を心地よく埋めてくれるなら、花そっくりではなくても別によく、「これから置いてみよう」と企んでいるのが、花のような形はしているけれど、質感は遠く離れたレゴブロックのフラワーブーケ。

小林眞さんのオブジェ

造花と同じようなニュアンスで、
「わざわざ場を設けて飾る」というよりは
「無意識に置いてもいい感じに見える」というのが、
『Out of museum』を主催する小林 眞さんが作るオブジェ。

アーティストであり郷古さんも慕う収集家でもある
小林さんが作るものは
「どこの時代のなににも属さない、不思議な存在感」
と郷古さん。確かに、卵のようなものや分裂途中の体細胞のようなもの、特別に目を引くわけではないが、「なにかクセのあるものの間に置くと、うまく空間をつないでくれる」という

平成のオーディオラックとAV機器

令和も5年になり、平成も遠いものとなりつつあるが、
昭和生まれの郷古さんにとって「平成のAV機器」は、愛すべきまぬけもの。
「こんなAV機器を使っている人はいない」と笑いながら、
アンテナを伸ばしてチューニングし、聞きたい局の周波数にダイヤルを回しラジオを聞かせてくれた。これで、CDやブルーレイも楽しむとか。
「パソコンやスマートホンでいろいろ試聴できるから、
オーディオラックもなくなりましたよね」。
カセットやレコードのように完全に古き良きものになりきれていないが、
シルバーのコンポ(確かに、そう呼んでいた!)は、懐かしさの一歩手前に生きるまぬけものだ。

Editor’s note

国内外の民芸品や焼き物、アートピース。現代アーティストによるオブジェ。骨董市で見つけたという、ジャンクともいえるような布や置物。郷古さん独特の感性で買い集められたものたち。
「なんでも容易に検索できる時代。名もない、なにかもわからない骨董や工芸品から、自分にひっかかるものを見つけるのが楽しい」と話す郷古さんからは、ブランド名や一般的な価値、周囲の評価に囚われない「ものへの愛」を強く感じました。
今回、提案してくれた「まぬけもの」。そう来るか〜、と特に唸ったのが「コンポ」。ヴィンテージ、アンティークになりきれない、下手をすると時代遅れになりかねないけれど、郷古さんにとっては今という一瞬にきらめく逸品。まぬけもののあり方がぐんと広がりました。インテリアとしてもイケてるのでは……!?と思えてくるのは、さすが。

間があって、貫けがある。
間貫けのハコへ、おかえりなさい。

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